ハリー・ディーン・スタントン主演 ラッキーを観た

渋谷のアップリンクで観た。

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主役のラッキーを演じるのは、去年の7月に91歳で亡くなった名優ハリー・ディーン・スタントン。この作品は彼の最後の主演作である。

自分がハリー・ディーン・スタントンを知ったのは、ツイン・ピークスの劇場版だった。数分程度の登場シーンだったが、放心した顔でタバコを吹かしながら、意味深な発言をする演技はあまりに印象的で、自分の頭にベタッとこびりついてしまった。
その後に見たストレイト・ストーリーでも、これまた最後の数分だけの登場にも関わらず、顔で語る圧倒的な演技で惹きつけたのだった。

映画のテーマは最後の主演作らしく「死」についてである。
誰しも、生きている間に少なからず死について考える。「どうなるか分からないから考えるだけ時間の無駄」と思う時点で考えてしまっている。ハイデガー的に、考えることで生を有意義なものに転換することもできる。人生を夏休みに例えると、死について考えることは夏休みの自由研究のようなものではないかと思う。自分なりの答えを一生を通して創り上げていく。

ラッキーは、夏休み最後の日、8月31日に改めて自由研究に向き合うことになった。
彼は生粋の現実主義者であり、自身の生命の終わりを意識したとき、彼の心の中に死についての黒く暗い観念が生まれ、徐々に膨れ上がっていく。彼と一緒にこの宿題に取り組むのは、一癖も二癖もある街の住人達である。彼らと言葉を交わしながら、時にぶつかり合いながら、ラッキーは自分の答えを創り上げていく。
黒く暗い観念を打ち消した先に彼が見たものは何か。名優として生きた人間の生前葬としてふさわしい作品である。